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東京高等裁判所 昭和53年(う)894号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人海地清幸提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し、記録並びに当審及び原審取調の各証拠により次のとおり判断する。

一、事実誤認の論旨について

所論にまず、本件幇助の犯意を否認し、被告人は宝石貴金属類の取引先を紹介しただけであるとする。しかしながら、被告人は、捜査官に対しては本件事実を右犯意の点を含めて詳細自白しているものであるところ、それは起訴にはなるまいと思って増田晃一の供述内容に沿う虚偽の供述をしたものだなどと弁解するのであるが、既に前件覚せい剤取締法違反の罪により懲役四年という重い刑をうけ受刑中の身である被告人が、右刑の確定後刑の執行停止中に重ねて行われたばかりか、一キログラムという多量の覚せい剤にかかわる本件事案について、なおかつ起訴を免れ得ると考えたとするのはいかにも納得しがたいものがあるし、本件につき終始被疑者として取調を受け、勾留を受けながら、自分では参考人程度だと思っていたというのも不自然なことである。してみると、右の弁解を斥け、被告人の捜査官に対する各供述調書の内容に信用性ありとした原判断は相当である。また、原審における証人増田晃一は、被告人に覚せい剤の入手先の紹介を依頼したのは申し訳なかったと思っている旨述べているのであって、所論が指摘するように被告人に対し悪意を有しているものとは窺えず、同人の公判廷における供述の信用性を疑うべき事情も認められない。結局、被告人に本件幇助の犯意を認めた原認定に所論の違法はない。

所論はまた、被告人の紹介行為と原判示覚せい剤取引の間に因果関係がない旨主張するが、被告人は、営利目的のために覚せい剤の入手を図る前記増田の依頼を受け、その情を知り、同人に対し覚せい剤取引に因る財産上の利益を得させる目的で、これを福田仁に紹介し、これに基づいて双方が香港で接触交渉し、話がまとまって代金の一部の授受がなされ、東京において覚せい剤の引渡しと残代金の受け渡しがなされたという経緯であるから、所論は失当である。

そして以上によってみれば、原判決が被告人に対し覚せい剤取締法四一条の二第二項の罪の従犯の成立を認め、刑法六五条二項を適用しなかったことはまことに正当である。

二、量刑不当の主張について

本件所論は、前述のとおり、前件覚せい剤取締法違反の罪により懲役刑が確定し、被告人の病気入院を理由に刑の執行の停止を受けている期間中になされたもので、取り扱われた覚せい剤の量も多く、犯情ははなはだ芳しくない。被告人の犯意が未必的であったとは認めがたく、因果関係が事実上中断しているともいえない。してみると、その余の所論諸事情を考慮しても、懲役一年四月の刑をもって不当に重いものであるとすることはできない。

三、よって、論旨はすべて理由がないから、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木梨節夫 裁判官 時國康夫 柴田孝夫)

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